日本子宮内膜症協会【JEMA】
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EBMに基づく診療ガイドライン



ESHRE guideline for the diagnosis and treatment of endometriosis 2007
ESHRE(欧州生殖発生学会)による子宮内膜症の診断・治療ガイドライン 2007改訂版


 ESHREの子宮内膜症ガイドライン(2005年10月初版)は毎年改訂するようで、2007年秋から改訂予告され、2008年1月中旬に2007改訂版に
変わったので、改めて翻訳しました(08年2月27日)。
 JEMAのサポーターさん(08年2月現在約1250人)と主要病院・医師(約300)、行政・企業・団体等(約100)には、「JEMAサポーター通信7号」に翻訳を載せ、08年2月中旬にお送りしています。

 2007改訂版は、欧米の代表的なガイドライン数種類と、1966年~2007年2月までのコクラン・ライブラリーを検討して作られており、世界子宮内膜症学会(WES)が推奨するガイドラインとなっています。
 特筆すべき点は、初版から9~10人の作成グループに患者であるEEA代表のLone Hummelshojが入っている点と(EEA代表兼デンマーク協会代表。ガイドラインの意見集約担当もし、WESサイト事務局もしている敏腕女性)、ガイドラインの最後の項目に、「子宮内膜症とのつきあい方」として、各国の患者サポートグループの価値まで書かれている点です。

 2007改訂版ガイドライン原文は、endometriosis.org(http://www.endometriosis.org)という子宮内膜症女性や医療者・研究者等のための世界最大の子宮内膜症プラットフォームの、resourcesのguidelineにあり、左メニューバーの下には"日本語訳はこちら"というリンクがあり、JEMAサイトのこのページに飛ぶようになっています。
今回の翻訳支援もこれまで同様、小菅博之氏(メドレット:The Medical Letter 日本語版編集長)です。
 翻訳文中の(英文)は原文に注意してほしいところ、〔J注〕はJEMAの解説や意見(今回かなり増やした)、そして、2007改訂版で新しく入ったのは        下線部分です。
 とくに注意して読んでほしいのは、「子宮内膜症性疼痛(endometriosis-associated pain)」「疼痛(pain symptoms)」「月経困難症(dysmenorrhoea)」の使い分けで、とくに1つ目は内膜症の病巣や癒着によって発生している痛み、2つ目は痛み一般のことです。
また、今回の翻訳で、ovarianendometrioma は卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞のこと)に統一しました。


● 2007年版の改訂内容
 今回の改訂では、2006年版の内容は温存され、枠外注が3ヵ所消え、文章や単語が2ヶ所増えて1ヶ所減り、
次の3つの新しい章ができました。
 
「性器外子宮内膜症(他臓器子宮内膜症)」、「子宮内膜症と悪性腫瘍」、「若年子宮内膜症」。
 ただし悪性の章は、書くべき内容はまだ、という注のみです。
 そして、「生殖補助医療」の章に次の2項目が入りました。
再発リスクは、3期~4期の術後にIVF(体外受精)を避ける理由にはならない。なぜなら、
累積再発率はIVFにおける過排卵刺激法(一般的な排卵誘発法)の後でも増加しないから 〔信頼度2a、勧告の強さB〕

IVFやICSI(顕微授精)の前の、3~6cmの片側卵巣子宮内膜症性嚢胞を有する患者の腹腔鏡下核出術・体内法は、その周期の結果を改善せずに卵巣の反応性を減少させる 〔信頼度1b、勧告の強さA〕

● 2006年版の改訂内容は2007年改訂でも温存
 2005年10月発表の初版から前回2006年の改訂は、細かい部分も数えると20ヶ所ほどありました。
最大の改訂は、2006年2月のYapらのコクラン・システマティック・レビューによる、以下の項目です。
術前ホルモン治療は、rAFSスコアは改善するが、疼痛軽減などの効果のエビデンスは不十分 〔信頼度1a、勧告の強さA〕
(2005年初版では「手術の効果を高めるための術前ホルモン治療を正当化するデータはない」)
術後ホルモン治療は、疼痛軽減にも再発にも効果はない 〔信頼度1a、勧告の強さA〕
(2005年初版では「術後のGnRHアゴニストやダナゾールの6ヶ月使用は再発を遅らせるが、ピルにはその効果はない」)。
妊娠に関して、「術後ホルモン治療は妊娠率に何ら効果はない 〔信頼度1a、勧告の強さA〕」は、
2005年初版からほぼ同じです(初版の文言は"ホルモン治療"ではなく"GnRHアゴニストやダナゾール")。
また、「妊孕性改善のための排卵抑制(ホルモン治療)は無効 〔信頼度1a、勧告の強さA〕」は、
初版から入っています。
さらに、手術とホルモン治療の関連では、
腹腔鏡を実施する時期は、過小評価を避けるためにホルモン治療中や3ヶ月以内は実施されるべきではない 〔勧告の強さGPP〕」が、2005年初版は1ヶ所だったのが、2ヶ所(診断と検査)に増えました。
この項目の意味は、ホルモン治療をすると、一時的な治療効果で活性度の高い腹膜病変(痛みにも不妊にも重要な病変)が縮小したり見えなくなったりするため、手術をしても見つけることができず、診断もされず(過小評価になる)、焼く処置もされないまま、術後にホルモン治療の薬効が切れて排卵が戻ると、病変が元気に復活してしまうから、よくないということです。

 次に、「レボノルゲストレルの子宮内システム(LNG-IUS)が、子宮内膜症性疼痛を軽減する 〔信頼度1a、勧告の強さA〕」という項目と、「術後のLNG-IUSは1年のフォローアップで中等度から重度の月経困難症の再発リスクを顕著に減らした」という解説が入りました。
 これは、いわゆる子宮の中に医師が挿入する避妊具に、第二世代プロゲスチン(黄体ホルモン剤)のレボノルゲストレル(LNG)がしみこませてあるミレーナという製品です。うまく納まっていれば効果は5年も続きますが(排卵は止まらないが避妊も治療もできる)、自由診療のため、7万円~15万円ほどします(外すのも医師が診察台で行う)。また、プロゲスチン単剤の宿命的副作用で、不正出血が毎日、半年前後、続く人が多いです。

 次に、「IVFやICSIの実施前の3~6ヶ月のGnRHアゴニスト治療で、妊娠率が上昇すると考えるべき 〔信頼度1b、勧告の強さA〕」という項目が入りました。
 これは、GnRHアゴニストを3~6ヶ月使って腹腔鏡手術をしてすぐ体外受精をする、という意味ではありません。あくまでも、GnRHアゴニストをした直後にIVFやICSIをする、という意味です。

EBM:Evidence Based Medicine(根拠に基づく医療)
診療ガイドライン:特定の臨床状況において、適切な判断を行うため、臨床家と患者を支援する目的で系統的に作成された文書と定義される。
ESHRE:European Society of Human Reproduction and Embryology(欧州生殖発生学会)
WES:World Endometriosis Society(世界子宮内膜症学会)
EEA:European Endometriosis Alliance(欧州子宮内膜症連合:"協会"という名前ではないが患者主体組織)

ガイドライン作成グループ(Development group)

 Charles Chapron、Gerard Dunselman、Robert Greb、Thomas D'Hooghe、Daniela Hornung、Lone Hummelshoj、Stephen Kennedy 、
 Andrew Prentice、Ariel Revel、Ertan Saridogan *9人から10人に増え、1人出て2人新人

目的(Objective)

 このガイドラインの目的は、子宮内膜症とその諸症状の診断と治療のための勧告を作成することである。

デザイン(Design)

 欧州の臨床婦人科医、EBMの専門家、子宮内膜症患者サポートグループの代表により構成されるワーキング・グループが、会議を開催した。エキスパート・パネルは、現存するエビデンスに基づく複数のガイドラインと複数のシステマティック・レビューをレビューした後、1日に3回会合を持ち、本ガイドラインの作成と推敲作業を行った。パネル・メンバーの臨床経験のみによる推奨は、可能な限り避けた。
ESHREの子宮内膜症・子宮内膜特別班全体が、ガイドライン案に対し意見を提出する機会を与えられ、その後、ガイドライン案は誰もが意見を出すことができるように、ESHREのウェブサイトに3ヶ月間掲示された。ワーキング・グループは、その後、無記名あるいは無記名に近い投票によりガイドラインを承認し、最後に、ESHREの理事会により正式に承認された。
このプロセスに続いて、現在では本ガイドラインを毎年アップデートしている。これは、厳密なプロトコルに従い、1年間を通じて新しい研究報告を2ヵ月ごとにピア・レビューし、ガイドラインに反映するものである。
本ガイドラインは誰もが閲覧できるように、http://www.endometriosis.org/guidelines.html上に掲示され、ガイドラインを支持する様々なエビデンスや関係する参考文献、抄録に、ハイパー・リンクしている。


 主たる結論(Main conclusions)

子宮内膜症が推測される症状をもつ女性に対し、ほとんどのタイプの子宮内膜症で、確定診断には腹腔鏡による下腹部内の視診が"ゴールド・スタンダード"として必要とされる。

しかし、この疾患を推測する疼痛症状(pain symptoms)は、診断を確定せずとも、月経血を減少させるホルモン剤(a hormonal drug to reduce menstrual flow)〔J注:ピルとプロゲスチン〕を治療的に試すことにより(using a therapeutic trial)、治療することができる。

腹腔鏡で確定診断された女性では、6ヶ月間の卵巣機能抑制(suppression of ovarian function)〔J注:ピル、プロゲスチン、ダナゾール、GnRHアゴニストなどの排卵抑制できるホルモン剤〕により、子宮内膜症性疼痛(endometriosis-associated pain)は軽減する。
検討された全てのホルモン剤の有効性は同等であるが、副作用とコストの側面は異なる。

病変の焼灼〔J注:腹腔鏡手術中の処置で焼くこと〕は子宮内膜症性疼痛を軽減するが、軽症の患者での効果は極めて小さい。
腹腔鏡下仙骨子宮神経切断術(LUNA)が必要であるというエビデンスはない。

軽症から中等症では、妊孕性改善(improve fertility)を目的とした卵巣機能抑制は無効であるが、癒着剥離を加えた病変の焼灼は、診断的腹腔鏡〔J注:お腹の中を見るだけの手術〕単独に比べ、妊孕性改善に有効である。

中等症から重症に対する外科的切除〔J注:腹腔鏡でも開腹でも病巣を切除すること〕が妊娠率(pregnancy rates)を向上するかは、エビデンスが不十分である。

IVF〔J注:体外受精〕は、不妊に他の原因が伴っているとき、および/または他の治療が失敗したとき、とくに適切な治療である。
しかし、子宮内膜症の女性のIVF妊娠率は、卵管不妊に比べて低い。

重症または深部浸潤性子宮内膜症の管理は複雑であり、必要な高度専門技術を有するセンター施設への紹介を強く推奨する。

患者自助グループ(patient self-help groups)〔J注:世界の協会たちは患者サポートグループpatient support groupsと自称する〕は、非常に貴重なカウンセリング、サポートおよびアドバイスを提供することができる。



エビデンス・レベルに基づく推奨の強さ(ガイドライン内の記号の意味)


A 少なくとも1つのRCTが実施され、文献内容が良質であり、一貫性を持って具体的推奨をしていることが要求される。

【レベル1a(システマティック・レビューまたは複数のRCTのメタ・アナリシス)、レベル1b(少なくとも1つのRCT)】
B
トピックとして推奨を行うに十分な、非RCTでも良質の比較臨床試験が実施されていることが要求される。

【レベル2a(少なくとも1つのよくデザインされた非RCT)、レベル2b〔少なくとも1つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究(quasi-experimental study)〕、レベル3〔よくデザインされた非実験的記述的研究(descriptive studies)、例えば比較研究(comparative studies)、相関研究(correlation studies)、ケースコントロール研究(case studies)〕】
C
エキスパート委員会の報告、または見解、および/または権威者の臨床経験からのエビデンスが要求される。適応を示すものの、直接応用可能な良質の臨床試験には欠けるもの。

【レベル4(エキスパート委員会の報告、または見解、および/または権威者の臨床経験)】
GPP ガイドライン作成グループの臨床経験に基づく推奨ベスト・プラクティス。

J注:上記のRecommendations(勧告・推奨)の枠外解説は前から省いているが、今回加わったのは、「確定診断された子宮内膜症を持たない女性の、月経困難症の管理に関連する有力なエビデンスからいくつかの推奨を行った」という一文。月経痛一般や月経困難症に関するエビデンス的論文のことだが、まだ確定診断されてない内膜症女性も含まれるはず。〕

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