JEMA BLOG
* 28日未明、功罪の「功」を大幅に加筆、全体的に少し修正しました。


2月20日に放送された「ためしてガッテン さらば、あのツライ痛み! 260万人を襲う謎の病」は、子宮内膜症でした。
見逃した人や録画しそこなった人は、今日(26日)の午後4時5分から再放送です。

過去、これと同程度に長い番組は、2002年10月30日放送、フジテレビの「発掘! あるある大辞典」で(1時間番組だが正味45分ほどか)、2002年当時としては画期的な内容でした(2ヶ月前からJEMAに取材があり、医師の選定から内容にまでどっぷり協力)。

今回「ためしてガッテン」をご覧になった内膜症のみなさんは、どういう感想を持たれましたか?
また、親、夫や彼、兄弟姉妹、親族、友人、知人などから、どんなことを言われましたか?

といっても、それぞれが持っている内膜症の知識の程度によって、内膜症の女性本人でも感想は千差万別になりますね。
以下は、ネットをできるだけ回って収集したものとボランティアスタッフさんらの感想などを元に、脚色してみました。

「知ってることばかりで初級編ね」
「だから私はもう何年も不妊治療やってるわ」
「今の若い女子はピル治療が当たり前で幸せすぎる、私はGnRHアゴニストの後遺症とつきあう人生よ」
「私と同じ病気で苦しまないよう、高校生の娘にはちゃんとピルを飲ませてるわ」
「"子宮内膜ちゃん"はあの通りの良い子で働き者だけど、内膜症は"子宮内膜症細胞ちゃん"だから全然説明が違うじゃん、こっちは悪魔でしょ」
こんなベテランさんたちもいるでしょうが、

「病院行ってるのにほとんど説明してもらってないから、すっごい勉強になった」
「ピルなんか恐いと不安だったけど、やっぱり飲まなきゃ」
「登場した患者さんたちに励まされた」
という人たちもいれば、
「半分も不妊だなんて辛すぎる」
「彼もきっと番組を見たからどーしよう?」
「肺にどんどん血がたまりまくって肺が破れるとか、卵巣ガンになるとか、もう恐すぎてイヤーー」
という人たちも(お母様たちも)多かったでしょうね。

この19年間、専門医と議論してきた知識レベル(もし英語が堪能であれば世界の専門医でも)と、患者視点の独自の大規模データを3回もとってきたJEMAは、日本で最も内膜症がわかっている立場であり、設立以来多くのテレビ番組で取材されてきた状況から考えて、
今回の「ためしてガッテン」は、5段階評価でいうと「4」、10段階評価でいうと「7」というところでしょう。

昨年5月25日の「あさイチ 内膜症、不妊、ピルで予防」が、金メダル(10分と短かった点も大きいが)。
今回の「ためしてガッテン」は、銅メダルです。
銀メダルは何かというと、まだ差し上げる番組はありません。

もしかして、2011年11月~12月の子宮筋腫で、「ためしてガッテン」のしばらくあとに「あさイチ」がガッテンコラボでさらに充実した放送をしたときのように、今後の「あさイチ」がもう一度内膜症を取り上げてくれるなら、今度こそ260万人(あくまでも推計ですよ)のために、かつこれから内膜症になっていくあまたの少女たちのために(男性のみなさん、あなたの娘さんやお孫さんのことよ)、最高の番組になるようご協力させて頂きますが、NHKさん、いかがかしら・・・

とにかく、「あさイチ」関係者にメールを送ってみます。
まずは、決して「ためしてガッテン」のまんまを使っちゃいけないと、釘を刺さなきゃ!


さて、今回の内膜症番組の功罪を書く前に、2011年11月30日放送の子宮筋腫、「守れ、女性のカラダ! 子宮のコブの大誤解」(NHKの番組サイトに過去の放送内容が読める)について、書いておきます。
月経のある女性の1割以上にある内膜症と比べると、子宮筋腫は女性の3~4人に1人が持っている、はるかに知られている疾患なので、放送内容は基本からものすごい深掘りした内容まで幅広く、現場の産婦人科医でも「へ~~、そうなんだ」とガッテンガッテンを連打する人がチラホラいるであろうほど、充実した内容でした。
その2週間後の「あさイチ」が、ガッテンコラボとしていっそう拡充した内容で放送されたのは、難病のJEMAから見るともう羨ましい限り。
筋腫の「ガッテン」は5段階評価の5、10段階評価の9、「あさイチ」は10段階評価の満点ですよ。


では、
今回の「ためしてガッテン さらば、あのツライ痛み! 260万人を襲う謎の病」の功罪について。

【功】
1.子宮内膜症は子宮の病気ではない、という内膜症の初めの一歩が、内膜症史上初めて、かつ印象的に説明された。
 JEMAでは設立以来広めてきたことで、JEMA情報を読んだ人は知っているものの(ホームページはのべ200万アクセス超、新旧会報誌はのべ2万人超、書籍は1万5千冊超)、世間の大半の人々は知らなかったわけだから、大変良かった。
 男性回答者の「早く病気の名前を変えればいいのに」という発言は、JEMAが1994年の設立早期に医師たちによく言ったことだ。

 せっかくだから詳しく書いておくと、子宮内膜症は子宮内膜様の細胞組織が異所性に身体のどこかに発生してしまう病気で(大半は下腹部内)、性格はガンとよく似ている。つまり、ガンのように周囲の組織を犯していき(ガンほど大きくは成長しない)、筋腫は転移などしないが内膜症は転移することもある。

2.子宮と卵巣が離れているからこそ、わずかであっても逆流月経血(月経血とは子宮内膜と血液の混じったもの)が子宮の外、つまりお腹の中に広がってしまうこと、かつそれは9割以上の女性に当たり前に起こっていることだけど、免疫機構の働きの違い(どう違うかは解明されていないが)によって、1割以上の人にだけ内膜症病巣ができていくという流れが、内膜症史上初めてわかりやすく説明された。

3.患者の半数が不妊というデータもある、と原田教授が明確に語ったのは内膜症史上初めてで、こういう厳しい現実をテレビで語るのは勇気がいったと思う。
 するとその直後、小野アナウンサーが、不妊と言われても妊娠しないというわけではないですよね? と意味不明な質問をたたみかけてきたが、原田教授は、不妊治療で妊娠することもできます、とあいまい表現で納めた(あんなふうに八の字眉でつめよられたら気おくれしちゃうだろうな、男性は)。
 これって、不妊治療をすればみんな妊娠するともとれるし、そのなかの何割かが妊娠するだけともとれる(こっちが現実。JEMAデータでは不妊治療も含めたうえで内膜症女性に子どもがいるのは半数)。
 
 ちなみに、不妊というのは、排卵日前後に積極的にセックスをして、1~2年できないときに、初めて不妊と言う。そうでない段階でいろんな不妊検査をしても、子どもができるかどうかなど全くわからない。

4.治療法の薬物治療で、副作用が少なく長期に使えるピルと同じ成分の薬だけが説明されたのは、近年のテレビでは定番だが、これは尺の長い番組だから、痛みを緩和する効果だけじゃなく、基本的には排卵を抑える(作用だから)内膜症の進行を抑える、妊娠したくなったらやめればいい、なども説明されたのは、内膜症史上初めてで、画期的。
 おそらく多くの診察室で医師が言うのは、ピルの治療効果は強くはないとか弱い、だろうが、正しくは、ピルであろうが劇薬のGnRHアゴニストであろうが効果は同等で(JEMAのガイドラインページ参照)、薬の使用中は内膜症の進行は抑えられている、ということ。

 ちなみに日本の厚労省だけが、内膜症や月経痛で保険適用を与えたルナベルとヤーズを、低用量エストロゲンプロゲステロン配合剤(通称LEP)と命名しているが、これらは日本を一歩出たら避妊でも使う当たり前のピル。世界的には避妊で使うあらゆるOC(ピルは通称)を、治療にも使うだけのことで、何の区別もない。

 さらに、これまでの薬は副作用が非常に強くて半年ほどしか使えなかった、と語られたことは、素晴らしい。
 とくにGnRHアゴニストの"うつ問題"は、JEMAが2002年から出し始めた厚労省への要望書のなかでデータを元に何度も訴え、各種産婦人科学会で会場発言もしまくり、産婦人科医学界に広めたことなので、感慨深い。
 これを、あなた誰よという医者じゃなく、日本の内膜症基礎研究第一人者の鳥大・原田教授が語ったことに、大きな価値がある(原田氏とJEMAは1997年以来の関係)。

5.手術治療では負担の少ない腹腔鏡手術の説明をして、治療の締めくくりとして、根治は難しいが、コントロールできるようになった、と語ったのは、素晴らしい!

6.内膜症のがん化は1%だからこそ、卵巣チョコレート嚢胞のある人は閉経後も経過観察が必要、と締めくくったのは、内膜症史上初めで、画期的!!
 世界で一生懸命研究されているが、がん化の条件(どんな人、どんな病巣など)はまだわからないので、チョコのある卵巣ごと取り去るか、チョコを持ったまま閉経するかは、医師とよく相談したうえで患者の選択となる。
 学会ではよく知られた事実だが、卵巣がん患者のおよそ半分には卵巣チョコレート嚢胞もある(つまり内膜症女性ということ)。
 チョコを持ったまま閉経しようと考える場合は、50代は半年ごとに卵巣がんの診断で信頼できる病院を受診してねとJEMAでは説明している(50代の状態によっては60代やそれ以上も)。

7.登場した内膜症女性たちが、みな一様に、「なんでガマンしてたんだろう、もっと早く向き合えばよかった、もっと早く行けばよかった」と語り、治療を受けている今は、「楽しい、毎日元気に働ける、仕事も生活もふつうにできる」と語ったことは、多くの内膜症女性や家族をはげまし、月経痛に悩む若い女性たちの受診行動を促す効果があったと思う。

8.子宮の中で働く「子宮内膜ちゃん」の動画はすばらしい作品で、「月経(生理)」や「排卵」、生殖器の構造などを学校で教えるのに、最適の教材になる。


1.しかし、それは子宮内膜症の病巣で起こっていることと同じとは言えない。
 この100年、誰も病巣で起こっていることは目視していないし、難しいが、エストロゲンとプロゲステロンの各受容体の発現状況(出てくる状況や数)が、病巣と普通の子宮内膜組織では全く違っている。

 100歩譲って、内膜症病巣で起こっていることも「あの動画」で説明してしまうのであれば、病巣自体が1ミリ以下や数ミリの大きさであることを大前提として、動画を構成すべきである。
 卵巣や肺の病巣を、最近よく登場するPM2.5の大きさの説明画像のように(毛髪、花粉、PM2.5の断面写真がそろって表示される画像)、客観的にまるで規模が違うという事実をちゃんと呈示すべきである。

 卵巣チョコレート嚢胞は、たとえば直径5センチの大きさになっていても、実際の病巣はやはり1ミリ以下~数ミリであると、ディレクターは知っていたのか?
 JEMAを取材した多くのメディアには、こんなことは基本のキとして説明するが、今回は一切JEMAに取材がなかった希有な番組なので、こんなことになったのではないかと想像している。

 とくに、肺の内膜症の説明は、あまりに酷く、放送時から今もこれからも、視聴者に大誤解を広め続けている。
一般視聴者の誤解もイヤだが、それ以上に、内膜症女性たち自身と家族に、恐怖が始まってしまった。
 最初に志の輔氏が背広をはだけたとき、右肺全体に破れがあった時点から、ディレクターに怒りがわいた。
 そして、かの子宮内膜ちゃんが肺全体に広がってぶくぶく成長し、しゅーんと萎えていくと同時に血液が広がっていったのを見て、訂正放送レベルではないかと思った。

 医学的には月経随伴性気胸という病気(JEMAでは胸部内膜症の気胸タイプと言う)で、JEMAでは2004年からホームページ内の他臓器子宮内膜症掲示板(去年の学会で希少部位子宮内膜症と名称統一された)で、この病気の多くの女性たちをサポートし続けている(希少部位で一番人数が多いのは腸管内膜症で、この気胸タイプは2番、他にも泌尿器、へそほかいろいろある)。

 この病気で胸の内視鏡手術をするダントツ第一人者、呼吸器外科医のK医師とは以前から連絡している関係だが、放送を見ていないというので、是非再放送を録画して見て欲しいと訴えてある。

 もうみなさん想像してもらえるだろうが、肺の内膜症病巣も、1ミリ以下~数ミリなのである

 さらに、卵巣チョコレート嚢胞と違って(というかこれが特殊な状況である)、肺そのものと体を形作っているボディー内側との間には、胸腔(きょうくう)という薄い狭い空間があるので(この空間があるから呼吸できる)、内膜症病巣は、テレビに出てきた腹膜ブルーベリースポットのさらにミニサイズくらいにしか成長しない。
 そのミニ病巣の中央部に、月経時にわずかな穴があき(登場した患者さんの主治医は"破れる"と説明したようだが珍しい表現だ)、空気が入り込んでくることで、肺が強制的に縮まされてしまうわけだ。

 それに、原田教授がチラッと語った、横隔膜の穴(右ばっかりと説明してた)のほうが重要
 下腹部内にできたふつうの内膜症が、まれに横隔膜(お腹と胸をわけている広い膜組織)の下側にもでき(お腹から見たら天井)、上側の胸部にまで進んでしまうことで(胸から見たら底)、このタイプの胸の内膜症はできていくと考えられている。

 横隔膜にできた内膜症病巣が、胸の薄い狭い空間のなかで、少しずつ肺やボディー内側の表面を上がっていき、それらの勝手なところにくっついて、そこでも成長することで、月経時にそこにもピンホールの穴があき、肺胞(はいほう:両肺で何億個もある小袋)の中の空気が胸腔へと素通りするようになってしまうから、肺が縮まされてしまう、というしくみだろうと考えられている。

 横隔膜や、肺やボディー内側の内膜症病巣は、もう一度書いておくが、1ミリ以下~数ミリサイズで、2~3個の人から10~20個もある人まである。

 また、お腹の中のふつうの内膜症(ブルーベリースポットなど)は腹膜(ふくまく)が、このタイプは胸膜(きょうまく)が、病巣からときどきチビッとしみ出る血液を、吸収・処理してくれている(カラダは凄い!)。

 卵巣チョコレート嚢胞こそ特殊であるというのは、卵巣はかたい豆腐のような塊の臓器で、その塊のなかに1ミリ以下の内膜症病巣が入りこんでしまうため(排卵直後)、病巣からときどきチビッとしみ出る血液を吸収・処理してくれる腹膜がないので、ときどきチビッと出る血液はたまりつづけるしかなく、年月をかけて少~しずつ成長し、3センチとか6センチなどになっていくわけ。

 ちなみに、何年にもわたって最初の血液から卵巣内にたまり続けているという点で、血液のなかの鉄分が年月をかけて少~しずつ悪さをして、卵巣チョコレート嚢胞はガン化していくと考えられている。

2.患者は推計260万人もいて、それこそ1万とおりほども病状や治療経過があるだろうに(とくに医師の手術技術差が大きい)、そのたった1人でしかないタレントや著名人を、わざわざ時間を多くとって、再現ドラマで劇的に扱うのは、本当にもうやめてもらいたい。
 「ためしてガッテン」で、病気のタレントや著名人をこのように再現ドラマで登場させたケースがあったのなら、是非教えてほしい。

 何が問題かというと、そういうタレントや著名人が関わってきた医師たちは、とくに内膜症にたけているわけではないのに、その普通の医師たちが語ったことや行った治療状況が、まことしやかにテレビから垂れ流されることで、内膜症女性と家族に大いに混乱を招くことだ。
 
 今回の例で言えば、不妊問題の扱いがいただけない。
 彼女の主治医が、自分が卵巣チョコレート嚢胞を取る手術をすれば、元気になって仕事に復帰できるという説明はそのとおりというか、当たり前のことだし、子どもが生まれるまで責任をもってサポートするというならそうしてあげてほしいが、保存手術でいかにも子どもができやすくなるみたいな甘いウソは、やめてほしい。
 
 いまどき、結婚していて子どもを欲している内膜症女性に保存手術を勧めるとき、こんな甘い説明をする医師は少数派だ。
 一般的にはこう説明する。
  「手術をしても再発率は高いので、子どもがほしいなら早くトライしましょう(できるだけ若いうちに)。不妊の場合も多いので、不妊治療を考慮する必要もあります。術後にすぐ子どもを作らないのであれば、再発予防として術後は低用量ピルや黄体ホルモン剤を使っていきましょう。」

 日本産婦人科学会のデータでとうに明確に出ているが、それなりの医師が手術しても痛みが緩和する率は結構あるが、誰が手術しても(名医でも)子どもができるようになる率はそう高くはないし、20代の再発率は非常に高い。

 まして、2005年あたりから世界でも日本でも明確にガイドラインで書かれているのが(JEMAのガイドラインページを参照)、保存手術をして妊娠率が上がるのは1期2期(チョコレート嚢胞ができる前のレベル)であって、チョコレート嚢胞が3センチ以上になっている場合は、妊娠するより前に卵巣をいじる保存手術は十分考慮しなければならない(そう簡単にやっちゃいけないってこと)。

 ついでに書いておくと、内膜症なんぞがあろうとなかろうと、21世紀になってからの不妊医療の大原則は、不妊の第一原因は「卵子の年齢」ということ(NHK報道系番組が去年しっかりとりあげた「卵子の老化という衝撃」を参照)。
 現在、日本のカップルの不妊率は6組に1組になっているが(一昔前は10組に1組だったが)、内膜症女性でいうと半分になってしまうわけで(内膜症の不妊率は誰がどうとったデータかで大きな差があり、もっと良いデータもある)、内膜症は昔も今も不妊治療医たちの大きな壁になっている。

3.内膜症の1種、「子宮腺筋症」が全く欠落していた。
 JEMAデータでは内膜症女性の3割に腺筋症がある。
 ちなみに学会では肺の内膜症は1%もないと言われている(0.1%もないかも)。
 まあ、あの番組なら、さらに腺筋症まで説明するのは無理だったのかもしれないが、肺の内膜症を大間違いの説明で長々と扱ってしまったわけで、そもそも肺タイプなどは取り上げず、著名人の再現ドラマも割愛して(不妊のことは人物なしで説明すればよい)、腺筋症を取り上げるべきだったのではないか。


とりあえず、再放送前なので、まとまりのない文章ですが、このへんでいったんアップしておきます(25日朝)。

* 26日(夜)、少し加筆修正しました。

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