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あなたを守る子宮内膜症の基礎知識 その3 [作成:2003年春]



1.基本的なこと

2.薬物治療 (1)進行をゆるめる程度の効果のみ

3.薬物治療 (2)低用量ピルは厳しい基準が科せられた薬

4.薬物治療 (3)副作用のうつ状態

5.内膜症の診断は難しくて誤診が多い、避けたほうが無難な医師

6.卵巣チョコレート嚢胞のでき方

7.薬物治療 (4)ホルモン治療のまとめ

8.低用量ピルの使い方


[1]・基本的なこと

産婦人科の良質の教科書シリーズというと、中山書店の『新女性医学大系シリーズ』ですが、なんと44巻もあります。その1巻が『子宮内膜症、子宮腺筋症』で、316頁で約3万円もします(『あなたを守る子宮内膜症の本』に執筆者一覧を載せている)。医学・医療は、産婦人科だけでもこのようにものすごく細分化されているため(大きく分けると腫瘍、生殖内分泌、周産期の3領域)、どんな専門医でも、自分の領域以外は詳しくはありません。内膜症は生殖内分泌に属しますが、腫瘍も大いに関係しているため、どちらが専門の医師でも中途半端になりやすい、やっかいな病気です(つまり両方に精通した医師が強い)。

さて、内膜症の最良の治療は、良質の腹腔鏡による保存手術です。こんなの昔から世界の常識。なんといっても、手術をしないと、その女性を内膜症患者と決めることすらできません(世界の常識、日本だけの非常識)。

20代で最初の腹腔鏡による保存手術をして、それでも残ってしまう病巣や癒着と、40歳前後まで再発してくる病巣や癒着に対して、あるいはぶり返してくる症状に対して、また腹腔鏡手術(または開腹手術)をするか、薬物治療をするか、何年かごとに考えていくのが、内膜症なのです(良質の保存手術ができる執刀医を選ばないと、ぶり返してくるサイクルが短くなってしまう)。

薬物治療で一番よく使われるのが、世界中で1相性低用量ピルです。これも30年前から世界の常識(日本だけの非常識)。低用量ピルは最も低リスクなので、基本的に何年でも使えますし、価格も安いので、一番よく利用されるわけです。

欧米でも、GnRHアゴニストやダナゾールを使う場合もありますが、副作用がひどくて短期(長くて半年まで)しか使いません。GnRHアゴニストやダナゾールが非常に効果的であるならば、欧米でも、低用量ピルなど見向きもせずそれらを使うはずですが、そうならないのは、長期慢性疾患である内膜症には、結局のところ、低用量ピルでも、GnRHアゴニストやダナゾールでも、効果は五十歩百歩だからです。しかも、副作用は圧倒的に違いますし。GnRHアゴニストやダナゾールの短期の治療効果のエビデンスはもちろん世界にありますが、日本の一般的な医者がわかっていない重大な事実が、そのエビデンスの臨床試験に参加した患者は、必ず保存手術をした確定子宮内膜症患者という事実です(というか内膜症患者ってのは手術で診断・治療した人のことだけ、日本以外の世界では)。

世界では、こんなこと当たり前なんですが、手術で診断・治療した人でないと、GnRHアゴニストやダナゾールは使いません。内膜症が確定しない段階で使うのは、1相性低用量ピルと黄体ホルモンだけです。日本の専門医は、エコーやMRIでチョコレート嚢胞なら簡単にわかると言いますが(だからそれでGnRHアゴニストやダナゾールを使ってもいいだろうと)、そういう読映力があるのはご自分のことであって、全国11000人の産婦人科医にはあてはまらない人も多いのです。医療は、性善説で語ってはいけませんよ。

手術もせずに、月経痛が強いというだけでGnRHアゴニストやダナゾールなどの強烈な薬を使われて、健康被害が目だつ日本女性は、病院と製薬会社のいいカモでしょう。

低用量ピルのエビデンスは、内膜症とは関係なく、避妊でピルを使っている女性と使っていない女性の大規模長期比較調査で、内膜症発生率が50%減というのがあります。他にも、良性乳房疾患50~75%減、良性卵巣嚢胞65%減、月経困難症63%減、筋腫59%減、子宮体がん50%減、慢性関節リューマチ50%減、過多月経48%減、鉄欠乏性貧血45%減、卵巣がん43%減、子宮後屈24%減・・・。

2002年12月にJEMAが厚生労働省に要望書を出したのは、まずは1相性低用量ピルの新規導入、そしてそれに保険適応をつける、臨床診断におけるGnRHアゴニス乱用の薬害状態を適正化する、です。


[2]・薬物治療 (1)進行をゆるめる程度の効果のみ

まず、内膜症の基本治療は手術治療だということを、しつこくおさえておきます。

さて、内膜症の薬物治療でよく使う、リュープリン、ゾラデックス、ナサニール、スプレキュア、イトレリン、ダナゾール(ボンゾールなど)らの保険適応治療薬は、みな多かれ少なかれ、使用中でも不正出血や下腹部痛がよく起こります。

医師の処方の仕方が悪いと、よけいに起こりますね。
薬の添付文書には、ナサニールとスプレキュア(点鼻剤)は「月経周期1~2日目より投与する」、リュープリンとスプレキュア(注射)は「初回投与は月経周期1~5日目に行う」、ゾラデックス(注射)は「初回投与は必ず月経中に行う」、ダナゾール(内服)は「必ず月経周期第2~5日目より行う」と、それぞれ規定されています。なぜかというと、この規定より遅れると、その周期の排卵を止められなくて、1周期分の薬が無駄になりますし(内膜症の薬物治療は排卵を止めることが第一目的)、不正出血も起こりやすくなるからです。

それを、患者の月経日など気にもせず、明日から始めろという医師たちが結構います(月経が終わったあとに受診する女性が多いので、次回の月経から使用というと、別の病院に逃げられると思うのだろうか)。彼らは、最初は月経が止まらないからと説明するようですが、薬の用法を無視して無駄遣いしていることの、ひどい言い訳です。
無駄遣いといっても、薬が体内に入ってくる以上、副作用は初日からでも起こりえます。

下腹部痛も結構起こります。
ダナゾール以外のものを総称してGnRHアゴニスト類といいますが、これは初日~4週間あたりまで、フレアーアップというエストロゲンを異常に出させる期間があるので(その後やっとエストロゲンを閉経前後の状態まで下げ始める)、そのせいでしょう。

チョコレート嚢胞があると、フレアーアップ期間に破裂するケースがあるという「重大な副作用」も、添付文書にはちゃんと書いてあります。破裂による下腹部痛は、救急車を呼ぶほどの激痛から我慢できちゃう痛みまで、幅はあります。

*卵巣のう胞破裂
 卵巣のう胞が破裂することがあるので、観察を十分に行い、膨満感、下腹部痛(圧痛等)の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

他にもビックリするようなことが、添付文書にはいろいろ書かれているので、自分が使っている薬はぜひ一読してみましょう。
病院でもらう薬の添付文書は、以下の厚労省関連サイトで検索できます。

医薬品情報提供システム http://www.info.pmda.go.jp/

GnRHアゴニスト類の場合、添付文書には、「重要な基本的注意」や「重大な副作用」として、

まず、“投与中に腫瘍の増大や症状の改善がみられない場合は中止すること”、があります。

そして、“骨量低下、うつ症状、脱毛、アナフィラキシーショック、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞、血小板減少・白血球減少、不正出血、肝機能障害・黄疸、糖尿病の発症や憎悪、間質性肺炎”が、問題性の高いものとして書かれています。

そのあと、「その他の副作用」が実にたくさん書かれています(血栓症も入っている)。

こういう強烈な劇薬であるGnRHアゴニスト類を使っても(スプレキュア点鼻剤だけ劇薬指定ではない)、使用後半年で内膜症の痛みが再発するという、世界的エビデンス(科学的証拠)があります。

海外旅行などしてふつうの雑誌を買うと、市販薬の宣伝が入っていますが、単純なアスピリンでさえ、ビッシリと小さい文字で添付文書内容が書いてあるのを見たことないですか。
それと比べると、日本は、あまりにも薬の副作用を客(市販薬の場合)や患者(病院処方の場合)に教えなさすぎますね。

いっぽう、低用量ピルは、日本以外の世界中で、内膜症に一番多く使われる治療薬ですが、やはりGnRHアゴニストやダナゾールと同じように、内膜症は治るわけではないし、使用後は再燃(薬物治療後は再発とは言わない)してくるし、副作用も少しあります。
でも、上記の薬たちのような強い副作用やたくさんの副作用はありません。副作用がほとんどないおかげで、上記の薬たちのように長くても半年までという使用期限もありません。「基本的注意」や「重大な副作用」は、血栓症だけです。

以上、GnRHアゴニスト類も、ダナゾールも、低用量ピルも(中用量ピルや黄体ホルモンも)、すべて内膜症の治療に使うホルモン剤ですが、なぜそれほど心身への作用が違うかというと、低用量ピルは、閉経前の女性が何度経験しても全く問題のない「妊娠」という状態に似せているだけですが、GnRHアゴニストは閉経前の女性には絶対に起こらない「閉経後」という状態に似せているからです。

また、低用量ピルは、避妊のために(女性が自分の心身を守る重要な課題)、健康な女性が何年使っても副作用で具合が悪くなったりしないようにせよという大命題のある、超特殊な薬です。
ところが、病気の治療薬の場合は、病気を改善するかわりに副作用である程度具合が悪くなってもしょうがないという、暗黙の了解があります(最大のものが抗がん剤で、正常細胞まで破壊することが多い。単純なものでは、鎮痛剤による胃潰瘍)。

それでも、世の中に、副作用のない薬は存在しません。なぜなら、薬の作用と副作用はどちらもその薬が体内に入ってきて起こす化学反応だからです。作用があれば、当たり前に副作用は存在します。

とくに、ホルモン剤と呼ばれるものは、作用も副作用もほとんど同じしくみで起こることなのです。
たとえば、GnRHアゴニスト類は閉経前後の超低エストロゲン状態にして内膜症に影響させようとするしくみの薬ですが、そのしくみは同時に、確実に骨量を下げる、コレステロールを悪化させる・・・となるわけです。


[3]・薬物治療 (2)低用量ピルは厳しい基準が科せられた薬

JEMA通信45号(2003年2月発行、会員(※会員:会員制度は03年9月10年度より廃止されました)しか読めない、行政や団体や内膜症専門医などには送付)を読んでいただくと、GnRHアゴニストやダナゾールと、低用量ピルの違いは、鮮明です。
JEMA通信は2ヶ月に1回の発行ですが、40~50ページあります。(※JEMA通信:3年9月10年度からの会員制度廃止に伴い、現在は発行しておりません)

低用量ピルは、ムチャクチャ健康で何の病気もない女性から、いろんな病気に悩む女性まで、避妊が必要な人は、何年でも基本的には使用可能なホルモン剤です。

WHO(世界保健機関)が絶対禁忌と指定してるのは、高血圧(160/100以上)、深部静脈血栓症、虚血性心疾患、脳卒中、乳がん、肝硬変・肝臓腫瘍・肝臓がん、糖尿病による血管病変や腎症・網膜症、35歳以上20本以上喫煙くらいです。

良性乳房疾患、乳がんの家族歴、子宮体がん、卵巣がん、子宮筋腫などは、全く問題ないカテゴリーに入っているのですよ(結核、HIV陽性やエイズも)。

健康な女性が何年使ってもよいという点を、よ~~~~~く考えてください。
副作用によって、健康な女性の健康が悪化するなら、避妊は重要な世界の課題とはいえ、WHOが許可するわけありません。

国によっては、低用量ピルは医師の処方を必要としないところもあるくらいです。
ところが、日本の低用量ピルガイドラインは、30年間低用量ピル上陸を阻止してきた集団におもねてか、ゴタゴタいっぱい書いて(子宮筋腫を絶対禁忌にするとはオッタマゲル)、女性たちに使わせないように使わせないようにしてますねえ。

ともあれ、低用量ピルの添付文書に書いてある細かいことは、健康な女性が使って不健康になってはいけない避妊薬だからこそ科せられた、厳しい厳しい高い高い敷居と考えてください。
いっぽう、病気の薬というのは、坑がん剤がわかりやすいけど、正常細胞も殺す、間質性肺炎で何%かが死亡する(肺がん治療薬のイレッサは悩ましいね、がん細胞が消える人も2割いるなどいうし)、それでも許可される、それが病気を治療する薬の低い低い敷居なのです。

さて、GnRHアゴニストは、スプレキュア点鼻剤以外は劇薬指定です。
すごい身体侵害作用がある薬剤が劇薬で、毒薬・劇薬なんて一緒に表現されることも多いのですよ。それ以下が、ふつうの要指示薬です(スプレキュア点鼻剤、ダナゾール、ピルなど)。病院での保管基準も違うはずです。

動脈硬化のある人は、とくにGnRHアゴニストはやめましょう。
もともと動脈硬化などなかった人でも、総コレステロール値上昇、中性脂肪値上昇で、高脂血症患者にされ、坑コレステロール剤(キツイ薬)の必須患者にされた人たちがチラホラいるのですから。

動脈硬化と血栓症を混同してる人がいるかもしれませんね。動脈硬化は血管の問題、血栓症は血液の固まりやすさの問題です。
ピルやダナゾールは血栓症の可能性がわずか~~にあります。GnRHアゴニストにも血栓症の副作用はちゃんとありますが、動脈硬化のリスクは結構ありますよ。

また、GnRHアゴニストでは無排卵になってしまう人が結構いて(卵巣機能低下)、排卵誘発しないと自己排卵できなくなる場合もあります。

骨量も下がります。骨量は、100%が上限だと思ってる人がいますが、120でも130でもあるんです。
GnRHアゴニストを使った場合、薬効成分がきちんと働けば、確実に3~10%の骨量減少になります(それがこの薬の作用だから)。もし骨量減少しない人がいるなら、すべて肝臓が代謝して水にでもしてしまったってこと??
また、骨量は、年齢相当で聞くのでなく、最大骨量で聞きましょうね。

術前投与でどうしても使う場合は、骨量減少を極力抑えるように、カルシウムを多く取る、ビタミンDを取る、日光にあたり運動する、などを一生懸命心がける必要があります。

うつもよ~く出ますね、それはまた後日。


[4]・薬物治療 (3)副作用のうつ状態

「子宮内膜症の実態01年データ」のページ(アクロバットが必要、無料インストール有り)で紹介しているJEMA01年データ(確定診断者603人、臨床診断者470人)に、代表的ホルモン剤(リュープリン1.88、ダナゾール、低用量ピル)の副作用グラフを表示しています(アンケートでは、内膜症に使うホルモン剤の各添付文書記載の副作用102項目を網羅し、複数選択してもらった)。

3つのグラフの大きさがえらく違いますが、102項目全部を縦にズラッと表示するわけにはいかないので、15%以上の人が訴えた副作用だけを表示したら、こうなったのです(3つの代表的ホルモン剤の副作用の違いがよくわかる)。
さらに、これが完璧な副作用の頻度と考えてはいけませんよ。骨量減少、肝機能値上昇、白血球数減少、LDL(悪玉コレステロール)上昇、中性脂肪値上昇、血糖値上昇、甲状腺機能異常・・・・・などの、体感できない、検査しないとわからない副作用は、それこそ検査してもらった人だけの回答ですから。

さて、JEMAが内膜症のホルモン治療で大きな問題の一つとする「うつ状態」は、内膜症のホルモン剤を使ったことがある875人中(確定と臨床の合計)、なんと240人もが経験したと答えました(27%)。
薬剤ごとに見ると、GnRHアゴニスト類では3~4人に1人という高頻度、ダナゾールで10人に1人、低用量ピルで20人に1人という割合になります(ほとんどの薬で臨床診断者が確定診断者より高い)。

また、うつが出た時の状態を質問すると、死のうとした(7%)、死にたいと思った(46%)、外出不能の時期があった(45%)、ふつうの寝食ができない時期があった(36%)、家族との会話や一緒の行動ができない時期があった(30%)、仕事ができない時期があった(29%)、家事や育児ができない時期があった(28%)、失職した(10%)、月経が再開してもうつ状態が残った(29%)となり、「うつ状態」という副作用が非常に危険であることがわかります。
なんといっても、誰に起こるか予想できませんし。

患者は薬の副作用など知らなくて当然で、前もって102項目など知らなくても、私たちには1ミリの責任もありません。
私たちは病院に行って、医師から内膜症だと宣告され、薬を処方されるわけですから、その薬でどんな有害事象が起こるかは、医師が患者に説明する義務があります(法律で定められている)。患者に勉強する義務などありません。
有害事象というのは、国民を守るために、副作用をもっと広く考えようとして旧厚生省時代から使う言葉です。

リュープリンなどのGnRHアゴニスト類の添付文書には、何年も前から、うつ状態や動悸や他にもたくさんの副作用が出ることは具体的に書いてあり、うつは、とくに「重大な副作用」の一つに上げられ(JEMAが声高に訴えてきた過程で添付文書に取り入れられたと考えている)、十分に観察することとか、中止することなどと書いてあります。

GnRHアゴニストの添付文書をちゃんと読ませてもらって、効果は使用後半年までというエビデンスも聞けば、使いたいという女性なんか出てくるのかいなと思いますが、日本では、効果の説明はウソっぽいし、副作用の説明はほとんどしない医師がとっても多い。そういう医師の中には、まず自分自身が添付文書を読んでない人も多いのでしょうね。

よくまあ、こんな劇薬をホイホイ処方する勇気があるもんだ。
自分の妻や娘、いや妻はわかりませんね、でも、娘には絶対に使わないのじゃないでしょうか、添付文書やまともな医学文献を読んだことのある医者なら。


[5] 内膜症の診断は難しくて誤診が多い、避けたほうが無難な医師

毎日、全国の病院やクリニックで内膜症の診断が出ているのでしょうが、実は内膜症の診断は難しく、全国11000人の産婦人科医の3分の2は、あてにならないと考えましょう。

だから、セカンドオピニオンやサードオピニオンもとったといっても、似たような開業医ばかりでは、何の意味もないのですよ。
たとえば、明らかに卵巣が腫れていて、血液がたまってるからチョコだと言われても、血液ではない場合もあるし(腫れてることくらい大半の医師はわかるが、内容液の種類までわかる医師はグンと減る)、ホントに血液がたまっていても、内膜症とは何の関係もない出血性黄体嚢胞というのもあるのです(数ヶ月のうちに消えてしまう生理的なもの)。
実際手術して、内膜症のチョコレート嚢胞だったから処置してあげたと言われていても、出血性黄体嚢胞を見間違っただけのこともあります(医師も患者も内膜症だと思ったままという不幸)。

逆に、ホントに内膜症で、月経痛や月経時以外の下腹部痛などがあっても、卵巣も子宮も腫れてないとなると、内診や直腸診や超音波で内膜症(基本的な腹膜病変や癒着がある)と臨床診断するのは、内膜症にたけた医師でないと難しいです(日常的に内膜症の手術をしている医師がなにかと良い)。

それなのに、日本では、いとも簡単にアンタは内膜症だと診断し、リュープリンやスプレキュアなどを半年も使わせる医師がゴロゴロいます。
機能性月経困難症を内膜症だと誤診されている人が多いと思いますが、薬物治療後は痛くならなくて、治ったと思わされていることが多いでしょう。
あるいは反対に、数回の月経で元の痛みに戻ってしまうこともあり、再発したからまたGnRHアゴニストをしよう、なんて誤診の繰り返しになる可能性もあります。

診断の次は治療の選択になりますが、治療の段階になると、内膜症で頼りになる医師は10分の1くらいと思ってください。

たとえば、初診で内膜症と臨床診断したり、初診でとった血液検査の結果で2度目の受診で内膜症だと臨床診断したりして、手術の話もなく、その日にGnRHアゴニストの注射を打とうとする、あるいはGnRHアゴニストの点鼻剤やダナゾール(内服薬)の通常量を出そうとする医師は、やめておきましょう。

あなたの問題を、複雑にしたり長引かせたりするだけの医師ですから。
こういう段階で出してもいい薬は、鎮痛剤か、低用量ピル(中用量ピルのことも)や黄体ホルモンだけです。

医師のみなさん、内膜症なのにそうだと診断できないことより、内膜症ではない人を内膜症と診断して投薬するほうが、はるかに罪深いことですよ。

Q.JEMAに入会したら良い病院等も教えてもらえるのでしょうか。

A.JEMAは純粋な非営利組織で、1000以上あると言われる患者団体では珍しく、積極的に今の医療を変えてやるぞ~~と、医療界や企業や行政を押したり引いたりして動かしちゃおうという、運動体であることが存在の一番の理由なので、この質問には答えにくくて、いつも困ります。
まあ、内膜症(腺筋症も)に関して活発に実効力ある活動を続けているので、自然に、ホントの具体的情報が集まる、とだけ書いておきましょう。
そうそうってわかってくれるのは、同じようなレベルで活動してる患者団体さんだけだろうな。
JEMAのHPで公開している詳細で膨大な医学・医療情報に満足してしまい、さらに会員(※会員制度は03年9月10年度より廃止されました)になるメリットなんかないだろう、と思う人がおられるようですが、年会費5000円を出すメリットがなくて5000円出してくださいと言うほど、JEMAは厚顔無恥ではありません。 ・


[6]・卵巣チョコレート嚢胞のでき方

卵巣チョコレート嚢胞しかない内膜症の人などめ~~~ったにいなくて、誰でも、腹膜病変(ミリ単位の病巣)が下腹部内のそこやここに、ポツ、ポツ、とあり、癒着もほぼあります。
そういう腹膜病変の一粒が卵巣の表面にでき、それが毎月毎月何年も繰り返されている排卵の時に、ふと卵巣内部に取り込まれてしまい(卵巣表面が破れる→排卵→破れはすぐ閉じる。この時に取り込まれる)、それが何ヶ月や何年かかって、チョコになっていくのです。

卵巣がんもほぼ同じしくみでできます。
チョコや各種卵巣腫瘍や卵巣がんの予防は、若い頃からの低用量ピル服用しかないことも、覚えておきましょう(排卵を止めてくれて、女性ホルモンはちゃと入れてくれるホルモン剤だから)。

たくさんの内膜症の女性が一番勘違いしてるのが(それを促進するのが医師たちの安易な説明)、チョコレート嚢胞があると言われると、それだけのことだと思ってしまうことです。
チョコの出来方を考えると、そんな人は1人もいないかもしれないほど(実際に私は一度も聞いたことがない)、ありえないことなんですよ。

そして、内膜症が痛いのは、基本的に、腹膜病変(とくに活発なもの)と癒着のせいで、チョコの存在ではありません。
だから、たまに、それなりのチョコができているのに、全く痛みなどないという人がいますよね。

卵巣チョコレート嚢胞は、リュープリンであろうが低用量ピルであろうが、薬物治療でどうなるものではなく(多少小さくなるのは、排卵が止まっている間に水分が吸収されて容積が減るからで、チョコを作っている病巣が減ったわけではない)、手術で取り除かないと、なくなってはくれません。

さらに、手術で取り除いたはずでも、反対側の卵巣に再発したり、同じ側に新しくできたりするので、内膜症はやっかいなのです(執刀医の技術が低いと、同じ側にすぐ再燃することもある)。


[7]・薬物治療 (4)ホルモン治療のまとめ

子宮内膜症(腺筋症を含む、以下略)の治療には、薬物治療(ホルモン治療とほぼ同義。なお最近、ホルモン剤以外の薬物による実験的治療が試みられている)と手術治療があるわけですが、日本以外の世界では、手術治療が基本治療なのは、何十年も前から当たり前のことです。
何といっても、手術した人でないと内膜症患者とは言いませんからね。
もちろんホルモン治療も、内膜症患者(手術治療して内膜症患者とわかった人)にしか、行いません。
ただし、ピルと黄体ホルモンだけは、古くから月経困難症や過多月経の治療薬ですので、手術する前から使えるわけです。

ところが、日本では、内膜症は手術治療よりホルモン治療のほうが当然のごとく先に行われることが多いですが、それは、製薬企業・行政・学会の護送船団方式が延々と続いているという政治的な理由であって、EBMも科学も無視したことです。
ただし、これは産婦人科に限ったことでもなんでもなく、日本の全医療に通じる悲しい問題です。

さて、世界の(つまり日本以外の)内膜症の医学教科書には、治療項目として、以下の3項目がのっています。

・observation(経過観察)
・ovarian suppression(排卵抑制)
・surgery for lesion ablation or extirpative surgery(病巣除去の保存手術か、臓器摘出の根治手術)

この2番目が、日本で言うところのホルモン治療ですが、まさに的確に、卵巣の排卵抑制という単語でしょ。
具体的には、リュープリン、ゾラデックス、ナサニール、スプレキュア、イトレリン(ここまでをGnRHアゴニストと言う)、ダナゾール、中用量ピル、低用量ピル、黄体ホルモンです。

ただし、このホルモン剤のなかで、明らかに病巣を直接攻撃しているのが証明された薬は、まだ一つもないのですよ。
悔しいけど、内膜症にホルモン剤を使う意味は、排卵を止めることで、進行をゆるめようとしているだけなのです。
それでも、病巣への直接攻撃作用としてある程度の状況証拠が出ているのは、ダナゾール、中用量ピル、低用量ピル、黄体ホルモンです(リュープリンなどのGnRHアゴニストに状況証拠は言われてない)。

これで、排卵を止めること(月経を止めることではない)がホルモン治療のねらいだと理解してもらえたと思います。
“低用量ピルは対処療法”だと高名な医者も書きますが(医者と企業の関係は濃いですよ)、間違いで、上記の全部が治療薬です。

内膜症のホルモン治療薬の効果は、使用直後は結構違いますが、20代で始まると40代なかばまでいろいろ悩ませてくれる内膜症の場合、結局はどれであろうと50歩100歩になってしまうわけです(使用後、自己排卵が戻ると、数回の月経で元の黙阿弥になっていく)。
しかし、使用時の副作用や終わってからも続く後遺症は、
「GnRHアゴニスト>>>>>>>>>>ダナゾール>>>>>中用量ピル>>低用量ピル>黄体ホルモン」と、
ビックリするほど違います。かたや劇薬、かたや健康な女性が飲んでいい薬ですから、当然の落差でしょうね。

内膜症は20歳前後~40代なかばまで抱える長期慢性疼痛疾患ですから、排卵を止められるホルモン治療を行う年月はどうしても長くなりますので、私たちは「リスク」を最重視して薬を選ばないといけないわけです。
欧米(日本以外のこと)では患者が気にしなくても、低リスクのピルや黄体ホルモンから医者が使ってくれますが、日本では正反対を平気でやる良くない医者がゴロゴロいるので、私たちは自衛しないといけないのですよね。
このあたりのことで、JEMAは、今年はかつてないほど行政・企業・学会と密に関係するようになっていますので、副作用や後遺症がバンバン出る薬を安易に使う危ない医療を減らすような施策を打ち出せるように、いよいよ国を動かしていければと思っています。

なお、様々な代替療法(漢方、鍼灸、アロマ、サプリ、生活改善・・・・)は、排卵抑制(ovarian suppression)はできないですから、内膜症の治療にはなりません。
それでも、痛みの緩和、体調向上、精神安定などに威力をもつものもあるし、ホルモン剤との併用はOKです。ただし、内膜症が100万人もいることにつけこんだ商売も多いので、自己責任で選択しましょう。


[8]・低用量ピルの使い方

(1)1相性と3相性はかなり違う

最近は、内膜症に低用量ピルをちゃんと処方してくれる医師がどんどん増えてきて、ちょっとホットしてきましたが、GnRHアゴニストやダナゾールなどのキツイ薬を経験したことがなく、まず低用量ピルから経験しはじめる人が増えてきました。
GnRHアゴニストやダナゾールを経験した人は、低用量ピルがいかに心身に楽なホルモン治療か実感できるのですが、ピルも副作用あるじゃないかって訴えは(副作用のない薬は存在しない)、何とも悩ましい。

日本の低用量ピルには1相性(2種類のみ)と3相性(数種類)がありますが(欧米先進国なら1相性製品が非常にたくさんあり、3相性製品も結構ある)、1相性と3相性では大きな違いがあります(3相性でも種類によって結構違う)。
ただ、GnRHアゴニストやダナゾールと比べて見た場合にはどれでも同じようなものというか、心身の健康に大きく影響する副作用はないので、自分に合うのはどれか、自分自身でいろいろ使って確かめるのが一番です。
薬は、とくにホルモン剤は、人によって反応がかなり違いますのでね。
それぞれ2~3シートずつとっかえひっかえ試してみましょう(A→B→C→A→C・・・)。
たぶん、内膜症の諸症状が強い人は、1相性でないと効かないでしょう。

(2)ピルが内膜症にいい理由

1.排卵が止まる(GnRHアゴニストやダナゾールでも止まるが、リスクが大きすぎる)
2.女性ホルモン状態が一定化されるので、内膜症病巣へのホルモン刺激が減る(1相性のみ言えることで、3相性は変動する。GnRHアゴニストやダナゾールは実は一定化が難しくて揺れている、とくにスプレキュアMP注は揺れが大きい)
3.プロゲステロンの直接作用(病巣の脱落膜化ができる。GnRHアゴニストやダナゾールにはない作用。黄体ホルモン単体にはもちろんある)
4.男性ホルモン作用も若干あるからいい(ダナゾールの効果の一端もこれ。GnRHアゴニストにはない作用。)

(3)ピルで起こりがちな副作用

さて、低用量ピルには合成エストロゲンと合成プロゲステロンが入っており、気持ち悪い(吐き気)というのはエストロゲンの副作用です。
この副作用がでやすい女性は、まずはやせている人。
BMI(健康的な体格)が18以下になってくると、やせで、吐き気や頭痛が出やすくなります。
  * BMIの計算  体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
健康的な体格はこの指数が20~22あたりですから(25以上は準肥満)、思春期の女子が憧れる体型はただの「やせ」、不健康な状態なんですよね。
次に考えられるのは、うつっぽい状態や不安な気分が続いているような人。
うつ状態や不安障害(気分障害)になると、脳ではセロトニンなどの神経情報伝達物質が少なくなっているのですが、セロトニンとエストロゲンには関係があるらしく、そういう状態の人は少量のエストロゲンの変化でもこたえてしまうようです。
ピル使用中の不正出血は、まずは子宮の内側に、粘膜下筋腫、良性ポリープ、子宮体がんなど物理的なモノがないか調べましょう。こういう器質的なモノがないなら、その人にとってそのピルに含まれるプロゲステロンが足りないかエストロゲンが足りないか、どっちかです。
この、どちらかの不足で子宮内膜が維持できずにポツポツ落ちてくる不正出血の場合、それで貧血になる問題が起こらなければ、心身にさして問題とは言えません。
吐き気や頭痛やなどの副作用が出ても、3パックまでには改善することが多いと知っていてください。
3パック過ぎても吐き気や頭痛が変わらない場合は、エストロゲンの少ない低用量ピルに変える方法がありますが、日本ではそれができません。
そういう低用量ピルがないので、個人輸入するしかないのです。日本の低用量ピル事情は、世界一お寒い状況です。
そこでJEMAは、内膜症に低用量ピルをもっと使いやすくするよう、今年度はガンガン活動しています。
今の日本で工夫する方法として、中用量ピルを半分に割って毎日判錠ずつ飲むとか、もっと分け方を工夫するとか、1相性低用量ピルも分割してみるなどという方法もありますが、不正出血が起こる可能性もあります。
ただ、こういう不正出血はそれで貧血問題さえ起きなければ、身体に悪い影響はありません。

(4)内膜症に良い飲み方

さて、内膜症でピルを使う人で、最初の2~3週間の避妊はどうでもいい場合は、低用量ピルを始める時に月経初日から飲まないで、4~5日目から飲むようにしましょう(量の多い日が過ぎた頃)。
そうすることで、その時の月経(前周期に妊娠しなかったために不用になった1センチ厚みの子宮内膜層)の大半が出て行ってくれて、不正出血やいらぬ痛みが起こる可能性がグンと低くなりますから(ただし避妊効果は下がることを忘れないで)。
次のシートからは、7日休薬して飲み始めます(出血していても飲み始める。飲むことで止血されていく)。これが一般的な、周期的使用法です。
ピルを休薬している間に出る出血は月経ではなく、ピルのホルモンが作った消退出血というものですが(基本的には月経と同じしくみのもの)、この時の痛みが強い人は、休薬せず、ピルを連続して飲む方法がいいでしょう(ピルの連続使用法)。
日本の女性は、内膜症の基本治療である良質の保存手術を受けている割合が欧米より少ないので、一般的な周期的使用法より、連続使用法が必要な人の割合が多いと思われます。
ただし、この連続使用法ができるのは、1相性低用量ピルだけですから、お間違えなく。

(5)ピルと妊娠のかねあい

妊娠とのかねあいですが、たとえば半年くらいの期間で考えて、その半年が毎月毎月妊娠しようとする期間でなければ、基本的には妊娠したい年代や立場の人でも、内膜症の症状が強くて日常生活がしんどいのであれば、半年くらい低用量ピルを使って内膜症をやわらげ、心身を休めてあげてください。
低用量ピルは、飲むのを止めれば1~2ヶ月で自己排卵が戻ります(GnRHアゴニストよりずっと早い)。ピルを使うと排卵できなくなるなんて誤解もたまに聞きますが、ピルは排卵不順(月経不順)の治療薬でもあり、まったく逆ですよ。


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